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第1章 - 物語 - ウィスカートンへようこそ

むかしむかし、はるか遠く(でもあなたの思うよりずっと近く)のあるところに、ウィスカートンという町がありました。小さな町ながらも、大きくふつうと異なるその町は、好奇心旺盛な猫たちのすみかであるだけでなく、量子物理の法則の支配するところでした。

その町は、ネコ科の住民にとっては、たまらない場所でした。だって、羽毛がふわふわと現れたり消えたり、ビー玉が赤や青になったり、宙に放り投げたフェルトのネズミの落ちる場所が「あるかも」「ないかも」しれない。そんな町に住みたくない猫はいないでしょう。

ウィスカートンは、結果が予測できない確率に支配された町であり、隣町のポーヴィルとは大きく異なっていたのです。ポーヴィルには誇り高き犬たちが住んでおり、そこではすべての結果が容易に予測できました。犬たちは、そんな何も異常のない世界に喜びを感じましたが、猫たちは、まさにその理由でポーヴィルを嫌っていたのでした。

そう。不可能や不確率、そして意外性に満ちたウィスカートンこそ彼らの居場所なのです。ああ、もちろん、彼らの大好きなツナビスケットがあることも忘れてはいけません。

ウィスカートンの中心には町の広場があり、銅、真鍮、金でできた、かなり目を引くネコの像が置かれています。この像は、幹のほとんどが爪研ぎ跡に覆われたグレートスクラッチングツリーと呼ばれる樫の大樹の下に置かれていて、木の枝が落とす暖かい影は、けっして像の印象を弱めることなく、むしろその繊細なディテールを一層引き立てているのでした。

像は、ウィスカートンの創始者シュレーディンガーを模したものでした。輝く顔は、大事なことを深く考えるような表情を浮かべています。一方、胴衣の腹部が少しせり出している様子から、クリームを塗ったツナビスケットを夜食に食べるのが好きだったことがうかがえます。

そんなツナビスケットに目がないシュレーディンガーでしたが、彼は熱心な開拓者で、何か素晴らしいものを発見しようと、放浪の旅によく出たものでした。そして、彼はついに発見したのです!その発見した土地は…控えめに言っても、奇妙な場所でした。

その土地の芝は緑だけでなく、紫や青もありました。そして丘や木々や池が、まるで自分の好きな場所を選びきれないかのように、たびたび移動します。でも、この土地でいちばんシュレーディンガーが心奪われたのは、たくさんのおもちゃがあることでした。ビー玉や羽、フェルトのネズミなど、色が変わったり、消えたり、現れたり - 予測困難な動きをしたりする不思議で奇妙なおもちゃが!

シュレーディンガーはこの不思議な光景を目の前に、ツナビスケットを頬張りながら、 「並外れた土地には、並外れた町がふさわしい」とつぶやいたと言われています。

シュレーディンガーは、この並外れた新しい町を建設するために、この土地に生息するおもちゃを使った華麗なショーを行い、住民を誘致しはじめました。結果、さまざまな形、大きさ、格好をした動物たちが見物にやってきました。テントを張り、焚き火で団欒し、ショーに感嘆し、目を覚ますとテントがいつのまにか野営地の別の場所に移動していることも(ほとんどの場合は)楽しみました。

ショーを存分に楽しんだ動物たちでした。しかし、この新天地に住みたいと申し出たのは、好奇心旺盛な猫たちだけでした。結局のところ、猫以外の動物たちは、自分たちの大好きなおもちゃがどこでどのように動いているのか、はっきりと見える場所のほうが好きなのでした。

こうして、その年の4月14日、ウィスカートンは町として認められただけでなく、世界中の猫たちの「ふるさと」と宣言されたのでした。




第1章- 解説 - 量子コンピューティング入門

第2章 - 物語 - シュレーディンガーの日